【Work】『ふたりのマンガ線』キーアイテムと場所のモデル

函館を離れて1か月。少しずつ、映像としての記憶がふわっとかすむようになってきたので、Xに書いてきた「エゾリス便り🐿」⑥までの内容をまとめておこうと思います。

2026年1月に刊行した『ふたりのマンガ線』(フレーベル館)の、執筆・改稿を通して参考にしたり、イメージをふくらませるための材料になったりした、アイテムや場所についての雑記です。

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ハッカオイルのスプレー

宿泊研修で秘(ひめる)が持ってきていた虫除けは、北海道北見市にある「北見ハッカ」さんのハッカ油スプレーをイメージして書きました。

市販の虫除けと同じくらい効果があって、香りも良いので、わたしもここ数年愛用している商品です。
紅茶に入れて香りづけしたり、湯船に垂らしてミントバスを楽しむこともできるそうです。

「ちょっと手出して」

「えっ?」

 言われたとおりにすると、秘はジャージのポケットからなにかを取りだして、ぼくの手首に「プシュッ」とふきかけた。

 ふわり、さわやかな香りが広がる。

「それ、なに?」

「母ちゃんが持たせてくれたハッカオイルだよ。虫除けにもなるし、車酔いにも効くんだ。気分がすっきりしない?」

 スプレータイプの小びんを見せながら教えてくれた。

『ふたりのマンガ線』P97

記憶はすべて五感とつながっていますが、子どもの頃にかいだ“におい”の記憶は、特別な引き出しに入っている気がしていました。

調べてみると、嗅覚は五感の中で唯一、記憶を司る「海馬」や感情にかかわる「扁桃体」に直接、情報を伝えるそう。だから、記憶が長く残りやすいのです。

あるにおいをかいだとき、ふっと昔の記憶がよみがえる現象は、「プルースト効果」と呼ばれています。
マルセル・プルーストの長編小説『失われた時を求めて』で、主人公がマドレーヌを紅茶に浸したにおいで幼少時代を思い出すのですが、そのシーンが由来となっているそうです。なるほど。

わたしは食いしんぼうなので、森永のチョイスなど甘いお菓子のにおいで子ども時代を思い出すことが多いです。

北見ハッカさんが函館 蔦屋書店さんで催事をされていたの、ご挨拶しました。
頂いたキャンディーのほかにも、バラエティ豊かなハッカ商品があります。

もう一つ思い出すのが、小学生のとき、遊びに行ったお友だちの家のにおいを、敏感に感じ取っていたこと。
自分の家とはちがうにおい。その子の世界に足を踏み入れた感じがすごくするんですよね。

においの記憶って、面白い。
(『ふたりのマンガ線』執筆時、ハッカスプレーを小道具に選んだのは無意識でしたが)

宿泊研修に参加すること自体、直前まで渋っていた錬磨。ハッカの香りは、錬磨にとってなにかを象徴するような香りとしてインプットされたんじゃないかな、なんて考えます。

「秘のにおい」なのか、「宿泊研修のにおい」なのか、もしかしたら、ちょっぴり切ない記憶を思い起こさせる香りかもしれません。

バーチ・ディ・ダーマ

宿泊学習の夜、消灯後、こっそり布団を抜け出した錬磨と秘。
お腹がすいてしまった2人は、錬磨が家から持ってきたクッキーの箱をのぞきこみます。

「・・・これはなに?」

「バーチ・ディ・ダーマっていうイタリアのお菓子だって。 『貴婦人のキス』っていう意味らしい」

 錬磨が箱のいちばん上に入っていた説明書きをわたしてくれた。

「えーっと、『ふたつのころんとしたクッキーにチョコレートをサンドしました。形がくちびるに似ていることから、その名前がついたといわれています』だって」

・・・

ふたつの丸を少しつぶして、合体させたような形のクッキーだ。

「本当にくちびるみたいな形だね。ハンバーガーにも見えるけど」

「地球にも見える。北半球と南半球にわかれてて、チョコが見えてる部分が赤道」

『ふたりのマンガ線』P117

宿泊研修の夜のシーンは、すべて受賞後に加筆しました。

書きながら、地球みたいな形のお菓子ってないかな? と探していました。
ちょっと前に流行った「地球グミ」だと、作品としての耐久性に問題が生じそうなので、もっとクラシカルなものでなにか・・・

そこで候補にあがったのが、バーチ・ディ・ダーマというイタリア菓子でした。
マカロンに似た形のクッキーがあることは、おぼろげに知っていたのですが、食べた記憶はありません。

自分が食べたことのないものを小説で使うのは避けたいな〜と、考えあぐねていたとき、たまたまイタリア菓子店「チッチョ パスティッチョ」さん(函館)に行く用事がありました。

焼き菓子コーナーを念のため確認したところ、「あれっ、これじゃない?」とラッキーな出会い!

可愛らしい形もぴったりだし、チョコレートがサンドしてあるので子どもにも好まれそう。
呪文みたいな名前もなにかに使えそうだな・・・と、お話の流れが次々とうかびました。

季節のフルーツを使ったケーキも美味しいチッチョさん。

もしあの時、バーチ・ディ・ダーマを実際に食べることができなかったら、『ふたりのマンガ線』が全然ちがう物語になっていた可能性もあります。素敵な出会いに、とっても感謝しています。

錬磨の持ってきたバーチ・ディ・ダーマは箱入りでなにやら高級そうでしたが(笑)、チッチョさんのものは手に取りやすいお値段です。訪れることのできる方は、ぜひ焼き菓子コーナーも覗いてみてくださいね。

クリスマスクッキーとして、自分でも作ってみました。

ほろほろとした食感で美味しかったですが、水分が多かったのか焼く過程で平べったい形に…。
チッチョさんのバーチ・ディ・ダーマのような、立体感は出せませんでした。いつかリベンジしたいです。

みよし文具の鉛筆看板

続いては、お店の外観を参考にさせていただいた函館の「くどう文具店」さんのご紹介です。
錬磨がスクリーントーンを買いに行く“みよし文具”のモデルです。

「マンガ用の画材はみよし文具にもあるから、細かい網点のトーンを買うといいよ」

 みよし文具は、学校の向かいにある文房具屋だ。大きな鉛筆の看板が目印。錬磨に行ってみようと目で合図する。

『ふたりのマンガ線』P158

大きな鉛筆看板が可愛くて、函館に引っ越して初めて見たときからお気に入りでした。

たまに観光客の方も写真を撮っていいかと声をかけてくるそうです。

後ろから見ても、ちょこんとのぞいた鉛筆の先が可愛い!!♡

横向きに寝かせてあるのでなくて、鉛筆の先が天を指しているのがいいなって思います。空が、紙やノートに見えてくるんですよね。

お店の方に『ふたりのマンガ線』を一冊お渡しすると、とっても喜んでくださいました。

イコイノモリ公園①

『ふたりのマンガ線』に出てくる“イコイノモリ公園”は、函館市にある「市民の森」がモデルです。
広大な敷地を散策するなかで自然を満喫できるので、よく家族で遊びに行った思い出の場所です。

散策路にあるオニグルミの木
くるみを食べるエゾリス。辺りに殻をかじる力強い音が響きます。
7月には紫陽花が見頃を迎えます。

お隣りには観光地としても有名な「トラピスチヌ修道院」があって、ときおり、カーンカーンと鐘の音が聞こえてきますよ。

イコイノモリ公園②

市民の森には、アジサイ園はあっても、カエデ並木はありません。

そこで、『ふたりのマンガ線』の“イコイノモリ公園”は、市民の森に、同じく函館市にある「見晴公園」のカエデ並木を合わせた形でモデルにしています。我ながら、ちょっと力技…!(笑)

去年の11月、少しだけ取材もかねて、紅葉を見に行ってきました。

このときは会えませんでしたが、見晴公園でもエゾリスに会ったことがあります(というより、北海道の大きめな公園には、結構な確率でいるんですよね)

カエデの名前の由来は、「カエルの手」だそう。手形がいっぱいでした。

錬磨・秘・心愛の3人も、こんな落ち葉の絨毯の上を歩いたのかな。

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